ショッピングモールが外部リンクを嫌う理由
(前回からの続き) さて、ここまでやられると出店する側として文句を言いたくなる気持ちもわかるが、楽天市場がこれほどまでに徹底して外部リンクを制限するのは次のような理由があってのことだ。
- 例えば楽天の店舗の商品ページで、「買い物カゴに入れる」ボタンの代わりに 「お買い上げはこちらで!」みたいな感じで自社サイトのショッピングカート機能、 あるいは他のASPのショッピングカート機能にリンクされたらどうなるだろう? 楽天は売り上げを管理できなくなり、従量課金で店舗から徴収できるはずの売り上げを失う。(※ 楽天では店舗の売り上げの2〜4%をシステム利用料として店舗に課金している)
- 「上のような露骨な外部リンクは確かにフェアじゃないが、『自社サイトはこちら』程度のリンクがあってもいいじゃないか」という話にも一理ある。 しかし、現在でも1万2000店舗数百万商品=数百万ページ(?)が存在し、リンク先もその表現方法も千差万別になるはずだ。そのひとつひとつのリンクの内容について楽天が吟味することは事実上不可能なので、一律禁止にする以外に方法が無い。
- 楽天市場の中だと思って回遊しているユーザーの立場から見ると、 いきなり外部のサイトに飛ばされて、見慣れたナビゲーションが無くなり「楽天トップに戻る」のリンクすら見失えば、ユーザー(特にネット初心者)は違和感を覚えて購買意欲を失いやすい。
- 自社ドメインのサイトへのリンクを許すと、当然ながら出店者は楽天の店舗ページのメンテナンスよりも自社サイトのメンテナンスを優先してしまいかねない。 自分のサイトのほうがかわいいのは人の情というものだ。 楽天市場において商品のページを追加、編集すると、それと同時に店舗間で共通の統一商品データベースも更新されてゆくようになっている。しかし出店者の手によるそれらの情報の更新作業が滞ると、商品データベースの更新も滞る。
- こうした状況がさらに進むと、最終的には楽天市場それ自体が「単なる巨大なリンク集」と化してしまう。 商品データベースが更新されてゆかないため買い物客が使う商品名や価格をキーにしたヨコ串な検索機能も意味を成さなくなってゆく。買い物客は落胆して去る。 それは楽天にとっても出店者にとっても買い物客にとっても不幸だ。
某女優さんと結婚&最近離婚した藤田社長が率いるサイバーエージェント社は、 1999年11月(サイトオープンは2000年)、楽天に真っ向勝負でショッピングモール事業に打って出る。 その名もネットプライス。
サイバーエージェントなど3社がEC事業で新会社を設立 (ASCII24 1999/11)藤田社長と親交ある宇野氏率いる有線ブロードネットワークスの営業マン(=普段はパチンコ屋や喫茶店に有線放送の営業をする人達)が出店者集めに動員され、あっというまに5000店舗(だったかな?)、とにかく当時の楽天の出店数を超える数の店舗を集めた。テレビCMまでもバンバン打たれた。
ところが、サイトオープン後数ヶ月たって、そろそろ落ち着いたかな?と、筆者が試しに何か買ってみようとネットプライスを訪れると、それはもう悲惨な状況だった。 とりあえず酒でも注文してみようと「酒、ワイン」のようなカテゴリをたどり、 てきとうな店舗のリンクをクリックしたのだが、いきなりサイトの雰囲気ががらりと変わった。 その店舗の自社ドメインのサイトに誘導されたのだ。 2000年当時では自前ECサイトは今ほど洗練されていない(いや、今でも無茶苦茶なECサイトは珍しくないくらいだ)。 どうやって買い物したらいいのか、というより、本当に買って大丈夫なのか?と、Web業界の人間である筆者ですら注文することにためらいを感じるくらいだった。ネット初心者なら絶対に誰も買わなかっただろう。 他の店舗も見てみたが、似たり寄ったり。 当然ながら買い物の方法もナビゲーションも店によってまったく違った。
ネットプライスはオープンをあせりすぎて肝心の商店街としての賑わい感はまったくといっていいほどゼロだった。 楽天が提供する楽天大学のように、ノウハウ面で店舗をフォローする体制も整っていなかった。 楽天では楽天の店舗ページの作成を請け負うWeb制作会社も当時から多数存在したがネットプライスではそのような業界体制も整っていない。 したがってますます出店者は自社サイトへのリンクを張るのみとなる。 次第にネットプライスは巨大なリンク集と化し、まるで看板しか残っていない廃墟と化した田舎の商店街のようになっていった。
ネットプライスは、お粗末なフォロー体制、外部リンクの許可という二重の失策により、見事に没落。ショッピングモール事業をライバルのはずの楽天に譲渡という結末を迎えた。
USEN、ショッピングサイト「ネットプライスモール」を楽天に移管 (Internet Watch 2003/7)いまは共同購入システム(ギャザリングというらしい)によるマーケティング的なビジネスに特化している。 現在のネットプライスモールはこちら。
話を楽天と外部リンクに戻そう。 外部リンクを嫌うのは、従量課金できなくなるという直接的な理由のほかに、 それを許せば上のネットプライスの例のようにネット上のショッピングモールとしての存在意義自体を失ってしまう現象を招きかねないからなのだ。
件の裁判沙汰を起こしている出店者の気持ちはわからないでもない。 しかし、ショッピングモールに出店している以上、そのモールの方針に文句をつけたところで、非情なビジネスの世界においてそれは「わがまま」と言われてもしかたがない。 コンビニエンスストアのチェーン本部と加盟店の間で結ばれる不平等条約に比べれば、楽天の出店規約などかわいいものだ。
くれぐれも断っておくが、筆者は楽天の肩を持つ気もなければ逆に店舗を批判する気もまったくない。 ただインターネットショッピングモールと外部リンクの関係について私見としてこのように思うだけである。
楽天市場のようなショッピングモールに出店すれば、 素人でも使いやすく設計された店舗管理やマーケティング機能を使うことができる。 楽天イーグルスが宣伝してくれる。弱いけど(笑)。楽天アフィリエイトが集客してくれる。アフィリエイトのフィー(価格の1%〜)を支払うのは出店者だけど。楽天ポイントが隣の客を呼んでくれる。ポイントの原資(価格の1%〜)を出すのは楽天ではなく出店者だけど。 それでも楽天市場の出店者は、店舗として集めたはずの顧客情報も与えられず、自前のサイトへの誘導もできない状態で商売を続けることになる。それはいわば「楽天市場の売り子の1人」としてだ。 楽天市場の中でわがままを言うことは許されないしそれは当然である。 それが楽天株式会社の、インターネットショッピングモールというものの、ビジネスだからだ。
自前でWebサイトをつくれば、完全に自由に自分のWebサイトを作り上げることができる。顧客データも自分のものだ。その代わり全ての機能を自分で構築しなければならない。宣伝も集客も自分でやらなければならない。 個人情報の保護を含めセキュリティ管理全般もだ。
どちらを選ぶかは、商売人としての覚悟を決めた上で、選択しなければならない。 いいとこ取りが簡単に許されるほど世の中は甘くない。
さて、ここまで読んで、悲観的になってしまう読者も多いだろう。 果たしてもう希望は無いのだろうか?
ある。それはオープンソースならぬオープンデータというキーワードを持って既に多くの人が語っているのだが、それについてはまた別の機会に記事にしよう。
see also:
アマゾンよおまえもか。最大15%還元キャンペーン再開
内製か?外注か?
顧客リストは誰のものか
ショッピングモールというビジネスモデルの寿命はそろそろ尽きる論について雑感
集客機能つきのASP=楽天市場=の「楽天税」は高いか安いか

コメントする
(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)