「政治資金の領収書1円以上は提出」しかし報告書のコピーも撮影も禁止というカラクリ
要約。
- 某大臣が、水道代と光熱費タダのはずの議員会館でのことなのに光熱費で数千万円を費用計上してたのがバレたとか、他の大臣も似たようなもんだったという件。
- 例によって「透明化!」とかいって善人ヅラした議員さんがすったもんだ
- でもそれってすべてパフォーマンス。単なる小芝居。
- 賭けてもいい。政治資金がらみで今やってる議論は、「1円以上すべて領収書を添付だ!」「いや、それじゃ事務的な経費がかかりすぎて無駄遣いだ」「んじゃ5万円から1万円に引き下げるくらいで手を打とうか」でシャンシャンとなり、「国民の皆様!もっと透明性を高めるという結論が出ました」と高々と報告されることで「決着」とかいう見出しになるだろう。
- それって良い事に見えて、実はある部分が巧妙に隠されたトリック。
- なぜなら最終的な「公開」の部分にカラクリがあるから。 政治資金収支報告書の「公開」は、ほんとうに「閲覧=目視で見る」だけ。コピーもできない。撮影もできない。ExcelやPDFファイルで配布なんてもってのほか。印刷もできない。 コピーアンドペーストすら許さない。いや、ホントにそうだから。
- 書類上の情報がどれだけ詳細化されようと、そこさえ守っておけば=詳細に調べにくくしておけば=痛いところを見つけられてしまう確率は意外に低い!という腹黒政治家さんたちの目論見はここ数十年そして今後も脈々と受け継がれるのが現実。
と結論を先に書いたところで、話を進めよう。
数字のチカラ
「食い逃げされてもバイトは雇うな」という本は面白かった。 そこではこんな話が載っていた。
ビジネスの数字がうまくなるためには?領収書の話なので「ゼロ円」は無理でも「1円」ならインパクトがある。「1円以上」と最初に言った政治家さんは最小単位という数字のチカラを見事に活用している。と同時に、核心の部分から注目をそらすことに成功している(まあもちろんそこまで狙ったわけじゃないだろうが)。
- 数字は言い換え可能(1勝2分けは3戦無敗に言い換える)
- いちばん有利な数字を使う
- ゼロに勝る数字ナシ
実はQ,C,Dで言うとQとCだけ論点にされて、Dの話題はあえて避けられている
そこそこ社会人やってる人なら、「ビジネスのQCD」くらいなんとなくでも知っているだろう。
- Q=クオリティ。品質。
- C=コスト。値段。費用。
- D=デリバリー。納期。物流。要するに「目的のものがちゃんと届けられること」。
ピザ屋に電話したら3分で持ってきた、でもまずかった=QとDのバランスが悪い。
オークションでいい出物があるのに送料を考えると躊躇せざるをえない=CとDのバランスがいまいち。
というように、どんなビジネスであれQ,C,Dの3点すべてにまたがるバランスが重要である。 どれかひとつ欠けても目的は達せられない。
ではQCDの観点で見てみよう。
だから無駄だって。なるほど、この人はQ=情報の詳細度=を向上させようとすればC=事務的な経費=も増大しそうだというバランスの悪化を懸念している。いい着眼点だと思う。
その領収書を整理するための事務員を雇ったりで、税金が大量に使われるだけでしょ。
税金は、返ってきません。 (以下略)
Yahoo!みんなの政治 - 第166回国会 衆法 166回39号 政治資金規正法の一部を改正する法律案 - みんなの評価 詳細より。
だが、ほうぼうの情報ソースをいくら探しても、D=デリバリー=の問題を挙げているものがまったく見当たらない。
たとえば、こんなことがあった。例の「光熱水費の何千万円というのはナントカ還元水を飲んでたんだ」とのたまった大臣(故)がすったもんだのとき、某野党の悪人顔で損してる人が自分の事務所費をパフォーマンス的に先陣切って公開したのだが、
=さあ、その1週間後、小沢氏が領収書などを公開したとして、朝日は小沢氏を絶賛しています。小沢氏の行為が、歴史的意義のある英断であるかのように持ち上げています。まあ、どう評価しようと自由ですが、それほどのものだったのか。同じく2月21日の日経新聞は《小沢一郎代表は、事務所費の詳細を公表するにあたり、領収書などのコピーや撮影を認めないなどの条件をつけた。公開時間も報道機関1社あたり30分で、閲覧人数も3人に限定》と報じています。この日、「公開」された資料はかなり膨大なもので、どの社も全部目を通したり、メモをとったりはできなかったと思うのですが。という感じで、要するに事務所費やその領収書などの書類を
朝日の「政治とカネ」社説と領収書へのこだわり:イザ!
- 詳細に=クオリティ観点ではGOODかも?
- 公開。=デリバリー観点ではすごい縛りが入ってる
つまりQCDのうちのデリバリーの部分が実は極悪。
んじゃこの議員さんが特に悪人なのかというと、そうではない。本人は「法律にそって公開している」と言い張っているし実際違法じゃない。
何人も、前条第一項の規定により報告書の要旨が公表された日から三年間、総務大臣の場合にあつては総務省令の定めるところにより、都道府県の選挙管理委員会の場合にあつては当該選挙管理委員会の定めるところにより、当該報告書又は書面の閲覧を請求することができる。そう。「閲覧できる」しか書いてない。30分の時間制限を課しても閲覧は閲覧である。 ましてや、コピーできるとか、撮影できるとか、PDFやExcelファイルをダウンロードできるとか、そういうことにはならないようになっている。そこがカラクリである。
政治資金規正法 第二十条の二より
つまり、今現在、こういうことになっている。
- 印刷できない(と主張している)政治資金収支報告書、WEBで公開 (スラッシュドット ジャパン 2004/3)
- 政治資金収支報告書及び政党交付金使途等報告書(総務省)
- ↑Webで公開といいつつも、実際はわけのわからない専用アプリケーションをダウンロードしないと読めないようになっており、そのアプリには印刷機能が搭載されていない。コピーアンドペーストもできないように細工されている。
- なんでまた税金を消費してわざわざそんな専用アプリを開発させてんの?単純なテキスト/HTMLあるいはExcelやPDFの形式で配布しないのはなぜ?
「それはね、法律では『閲覧できる』としか規定されてないからだよ。アカンベー!」
さてところで、デリバリー観点がなぜそこまで重要なのだろうか?
少し話が飛ぶが、こんなことがあった。
要するに、
- 市が持っている農道や水道などの地図が電子データで存在する。
- もちろん誰にでも「公開」される
- ところが公開の方法は「紙」に限定されている。法律で。
- だから、データをCDにでも焼いて渡せば済むものをわざわざコストをかけて印刷。
実はこの話の裏では「だってしょうがないじゃん」的な言い訳をしているお役所の中の人を見たことがある。法律論以外の観点で。
CD-ROMなどの電子データで渡したら、「原本との照合」が難しいじゃないか?掲示板等で見た話なのでソースが無いのが残念だ。つまりこういうことである。
- 例えば書類であれば、役所のほうに残っている原本と、配布したものとを見比べることで、流通過程での改ざんなどを抑止できる
- でも電子データでは見た目でそれができないじゃないか。お役所としてはそういう危険は冒せない。
このように、電子データの整合性を確認する技術はもう何十年も前から確立されており、実際にITの世界ではいまも常識的に利用されているというのに。
- ファイルハッシュ値の計算 (@IT:Security Tips 2004/6)
- Tips:ハッシュ値を利用してファイルの同一性をチェックする(@IT:Windows TIPS 2005/7)
話を政治資金に戻そう。またちょっと「食い逃げされてもバイトは雇うな」から抜粋させていただく。
そう。政治資金収支報告書の内容を詳細化=クオリティを上げる=しても、デリバリーの部分で縛っておけば、上のような分析がされてしまう心配が無いのである。コピーさせなければ数値を探すことも比較もしづらい。指標を定めることも難しい。そこがキモ。議員会館は光熱費タダのはずという、数値を探す側にとってもそれを報道する側にとっても報道を聞く側にとっても食いつきやすくわかりやすい指標をもって探すくらいがせいぜいだ。(第4章 決算書の見方はトランプと同じ より)
- 決算書は「読む」のではなく「探す」
- 知るべき「指標」を決め、決算書から数字を探していく
- 「比較(過去比較、他社比較)」することで問題を浮き彫りにする
- 割り算で「比率」を出す
数字のチカラはすごい。「7つの習慣」「SEがおさえるべき50のナントカ」「○○である10の理由」。タイトルに数字を入れるだけで、本でもブログでも売れ行きがだいぶ違う。 筆者はあえてやらないのだが、それでも少しテストしてみたことがある。 「たとえ個人の趣味のブログであっても独自ドメイン上でやるべき8つの理由」という記事がそれである。いやあ、このときは釣れた釣れた。フォースの暗黒面をチラ見した。
「領収書の提出は現状は5万円以上」「そこを1円以上に」といった数字のチカラを利用してクオリティ観点に議論をひきつけておき、 肝心なデリバリー観点には注目されないように細心の注意が払われているというのは決してうがった見方ではない。 頼むからビジネスのQCDの基本くらいおさえてくれよ>中の人。
つまり、いまおきていることは、自分で自分の首を絞めかねないような法律や規制を政治家自身に議論させてもまったくムダであるという過去百年繰り返されてきた日常がそこにあるというだけのことである。 そんなわけで先の選挙では自民にも民主にも入れなかった筆者。 ああ、美しい国、日本。
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