パスワードの危機(その3) − 楽天の場合
少し古い例ではあるが、典型的なある事件を例にあげよう。
「楽天」元派遣社員、不正アクセス容疑で逮捕 (Mainichi Interactive 2002/11)楽天のユーザーサポートを担当していた者が、 その業務上知りえたIDとパスワードを使って嫌がらせ行為を行ったというものだ。 この件に関する楽天からの公式発表のページはすでに削除されているのだが、 そのコピーを残したページがあるので、そこから一部を抜粋する。
同人は派遣期間中、弊社にて、個人ユーザーからの各種問い合わせ対応の業務に従事しており、 個人ユーザーのユーザーID、パスワードを業務の一環として閲覧する権限を有しておりました。 なお、派遣終了後に個人ユーザーのユーザーID、パスワードを社外から入手することは出来ないことから、当該個人情報は派遣期間中に入手した可能性が極めて高いものと考えております。つまり当時の楽天のユーザーサポート業務が担当者が生のパスワードを見ることを前提とした仕組みになっていたことは事件の内容とこの広報文を見て明らかだ。
弊社は従前より、ユーザーの個人情報のアクセスを業務上必要な社員にのみ認めてまいりましたが、今般の事件の発生を受けて、ユーザーの個人情報の管理に関し、社員に意識の向上と綱紀の保持を徹底するとともに、ユーザー情報へのアクセス権限の見直しなど運用面での管理強化を直ちに実施しております。 さらに、個人情報の管理ルールの定期的な見直し、実施状況の確認、システム面からの管理体制の強化、内部監査室の設置による監査体制の強化など、再発の防止に全社をあげて取り組んでまいる所存です。と対策としていろいろ打ち出してはいる。 しかし肝心な、データベース上におけるパスワードの暗号化(ハッシュ化)保存処理はこの事件から1年以上たった現在もいまだになされていない。 それは実際に楽天のパスワードを確認するページで手続きしてみればわかることだ。 (2005/7追記:以前までは自分のパスワードがそのまま表示されるだけの仕組みだったのだが、現在では改めてパスワードを設定しなおす画面に誘導される)
断っておくが楽天に対する他意はまったくない。 例として非常にわかりやすいのでとりあげたにすぎない。 言いたいのは、似たような前提、似たようなシステム、似たようなサポート業務方法をとっているWebサイトは今では他にもゴマンとあるだろうということだ。 それを当然の前提と仕組みだと考えるのは完全な誤りであることは前回のパスワードの危機(その2)−あるべき姿で書いたとおりだ。 内部犯行ではどうしようもないとあきらめてもいけない。 パスワードの暗号化(ハッシュ化)保存はこうした内部犯行からパスワードだけでも確実に守る仕組みとして考えられているのだから。
多くのWebシステムにおいて個人情報はあるひとつのデータベース上に記録されている。 そこで、
データベース上の氏名、性別、住所、電話番号、をすべて一覧表示せよというコンピュータ上での命令を実行することは入社1年目程度の新人SEや 情報処理科目専攻の学生でも可能だ。 そして、あくまでもWebシステムの規模やサービスの規模にもよるが、 IDやパスワードを氏名や住所と同じデータベース領域に保存しているケースも十分ありうる。 ということは、
氏名、性別、住所、電話番号、ついでにユーザーIDとパスワードを すべて一覧表示せよという命令を書くことも可能なのだ。 あとはその命令を実際に実行できる環境(組織や権限)と人間(モラル)の問題だ。 例えばアルバイトのユーザーサポート係、社内のコンピュータ管理担当者、 システム構築とメンテナンスを委託されている業者・・・などなど。
「個人情報の漏洩事故に巻き込まれるのは一握りの不運な人だけだ」という数字的な見方もあるが、ファミリーマート、 ネット会員18万人分の個人情報が流出といった事件は実際起きている。 18万という数字は一握りとは言えない。 ファミリーマートの一件は情報が名簿業者に流れて架空請求詐欺の標的にされる程度で済んだようだが、 もしもファミリーマートのそのデータベースが会員ごとのIDやパスワードも保存する会員管理システムも兼ねていたとして、もしも氏名や住所だけでなくIDやパスワードも流出していたら?と考えるとゾッとする。
お金も個人情報も絡まないちょっとした娯楽サイトでのパスワードが バレてもたいした問題はないだろうという認識も、甘いと言わざるを得ない。 「わたしはそうしたWebサイトで使うパスワードと、 お金や重要な個人情報を扱うWebサイトでのパスワードは区別して使っている」と、 自信を持って言えるユーザーがはたしてどれだけいるだろうか?
怖いのは内部犯行だけではない。
アマゾン書評、自作自演が発覚 (cnn.co.jp 2004/2)アマゾンですらこういう単純ミスによる事故を起こすのだ。 もしも表示されたのが氏名ではなくパスワードだったら? (注:アマゾンのパスワード管理の仕組みはよくできている。これについては後述)
アマゾン・ドット・コムのカナダ版で近ごろ、 書評欄に書き込んだ人々の個人情報が表示されるシステム障害が生じた。 アマゾン側は利用者からの連絡を受けて不具合を修正したが、 このシステム障害の結果、 多くの著者が自身の著作に対して好意的な書評を書き込んでいることが発覚した。
(途中省略)
アマゾンの書評欄は、個人情報を出さずに書き込めるシステムになっている。 個人情報が表示されてしまったことについて、アマゾンの広報担当者は 「今回生じた障害は不運な事故だった。 今後はこういったことが生じないように対処する」としている。
このように、 Webシステムにおけるセキュリティの基本であり、ほぼ唯一の要であるはずのパスワードにおいて、 その暗号化(ハッシュ化)保存がなされていない場合、それは非常に危険な状況だと言える。 いま、そんなWebシステムが巷にあふれているのだ。 いったいいつのまに、そしてどうして、このような状況になってしまったのだろうか? (次回に続く)



